- 作者:三島 由紀夫
- 発売日: 1998/02/24
- メディア: 文庫
駅構内の売店に置いてありました。
恥ずかしながら聞き覚えのないタイトルでした。手にとって冒頭の1ページを読んで即購入。その後一気に読んでしまいました。字も比較的大きいので3時間もあれば読むことができるでしょう。
1968年に週刊プレイボーイに掲載された小説ということです。
内容は文学的ミステリーと言えば良いのでしょうか。
主人公が自殺を図ったものの生き残り、病院で目覚めたところからこの物語は始まります。仕事も辞めた主人公は新聞に「命売ります」という広告を出し、その広告に惹かれた人たちがやってきて、次々に変な事件に巻き込まれて行きます。
本来「命を売った」のだから、商売は一度だけでお仕舞いの筈なのに、中々死ぬことができません。文字通り「死を覚悟した」主人公の態度が却って事態をあらぬ方向へ歪めていくのです。
物語は後半に向かい、主人公の心境の変化や、物語の裏でつながる大きな構造が描かれて行きます。そして最後のどんでん返し。
にもかかわらず痛快というよりも、皮肉な脱力感を最後に残し物語は終結します。
三島由紀夫の文学的描写力が振るわれつつ、エンターテイメント性を備えた作品でした。
発表当時 (1968年)は高度成長経済の真っ最中で、この作品が描いていた世界は、これから進化する資本主義社会への警鐘と解釈することもできたことでしょう。とはいえ、あまり当時の読者には深刻には受け取られていなかったのではないでしょうか。
しかし現時点(2015年)でこの小説を振り返ってみると、その先見の明に感心します。とはいえ全く堅苦しい作品ではないので肩の力を抜いて読むことのできる小品です。