酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

エンジェル

エンジェル (集英社文庫)

エンジェル (集英社文庫)

気が付くと、真夜中のどこかの山中に埋葬されつつある自分。そのシーンを空中から眺めている自分。主人公掛井純一はその「死」の直前の二年間の記憶を完全に失っていて、幽霊のまま自分の身に何が起きたのかを探ろうとします。
様々な手がかりを辿り、まるで探偵のように動き回るうちに、段々と色々な事情が明らかになってきます。そうした意味ではうまく読者の興味を引っ張っていくことには成功しています。
本作では、幽霊の「できること」(現実世界に与えられる影響)を細かく書き込んでいくことによって、制約条件を発生させて、それが物語を進めていくための主要な鍵にもなっているのですが、細かい矛盾がどうにも気になって仕方ありませんでした。
時代的には1998年の出来事ですが、既にインターネットは普及がかなりすすんでいて、主人公はゲーム関係者だということもあって友人とはパソコンでメールをやり取りしていました。幽霊になってからの主人公は物理的にキーボードを操作したりはできないのですが、「電気回路」を支配することができるので、自宅のパソコンを立ち上げて友人にメールを送ったりしています。
でも、そんなことができるなら、組み込み機器、情報機器などを支配することによって、事件を効果的に解決したり、悪人たちへの対抗もいくらでも簡単にできる筈なのですが、主人公はそうはせず、わざわざきわめて効率の悪い戦い方をします(そのおかげで最後の方の戦いでは悪人だけではなく第三者を巻き込む羽目になってしまいます)。
ということで、まあ細かいことが気になる私がいけないのですが、折角の設定がもったいないなぁという気持ちが残りました。