酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

女神のタクト

女神のタクト

女神のタクト

女、三十にして全てを失った。
厳密に言えば、「職」と「男」を同時になくした。前者は受動的に、後者は能動的に。

という書き出しで始まる本書は、失職と失恋の憂き目にあった主人公が、旅先で謎の老人と出会いひょんなことからどん底オーケストラの手伝いをすることになるお話です。

最初あまりにもテンポが良すぎて(というかご都合主義的にお話が進みすぎるので)戸惑いましたが、軽いノリのなかから音楽に対する登場人物たちの思いが浮かび上がり、紆余曲折を経て段々と昇華されていく様は見事でした。各登場人物たちも大げさながら魅力的に描かれています。セリフは大部分関西弁で、まるでドツキ漫才のようなやりとりも多く、思わず吹き出すシーンも沢山あります。

様々な要素が縦横無尽に絡み合い、時間を超えたタペストリーとして最後に完成していきますが、普通ではあり得ない設定も一つのまとまった世界として楽しませてくれる楽しい小説として仕上がっています。

小説の中で使われているクラッシック音楽について知っていれば、それを心に響かせながら読み進めることもできますし、逆に知らなければ改めて音楽を聞き直すことによって二度本書を楽しむことができることでしょう。

大晦日の昼に読み始めて三時間ほどで読了。疾走する雰囲気が心地よい一冊です。気持ち良い本に出会ったときにはいつも思いますが、読み終わるのが勿体ないと思わせる本でした。