酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

県庁の星

県庁の星

県庁の星

Y県の上級職の野村聡は、知事の思いつきパフォーマンス(?)である「民間交流プログラム」の一員として、県下のスーパーマーケットへ一年の研修を申し渡されます。晴れて研修の成果を挙げて県庁に戻ったアカツキには、昇進への期待を心に秘めて。
さて、小説としてはユーモア仕立てで、上のような設定から、のっけから楽しそうな展開になりそうなのですが、実はこの小説、私は最初の80%位までは少し読むのが苦痛でした。
というのもなかなか登場人物に感情移入しにくいのです、視点も頻繁に変わるのですがしばらく読んでいかないと、今誰の立場で眺めているのかがなかなか分かりません。登場人物たちもいまいち乗り切らな性格だったり、ひがみ根性が入っていたり、しかも本格的にぶつかり合わずに牽制しあうばかり。
そうした意味で小説の技法としては、やや難アリなのですが…。
で、文句ばかりかと言えば、小憎らしいことに最後の20%が滅法面白いのです(笑)。さらにやっかいなことには、この面白さは最初の80%を我慢して読んできたからこそ、なお面白いと感じるような代物なのです。
同じ公務員モノとしての小説では、私は萩原浩の「メリーゴーランド」の方が好きですし、優れていると思いますが、この小説も最後まで読みきれば(笑)、なかなか面白いものだと思います。
ということで、はなはだ余計なお世話なのですが、最初の80%に達する前に読むのをやめる場合には最初から読まない、ということをお勧めします。

なお、最新の「ビッグコミックスピリッツスペリオール」では本書を原作とした漫画の連載が始まり、ほどなくドラマ化もされるようです*1。ちなみにスピリッツスペリオールの一回目は、原作では主要登場人物の中年女性が若い女性に置き換えられて登場していて、それじゃぁ原作の意味とかけ離れてしまうのに、なんだかなぁ、という印象でした。
まあ、もちろん最近はやりの「原作にインスパイアされた別物」だってあってもいいと思うのですが、「単純に主要なキャラクタが中年の子持ちの太ったオバさんだと人気が出ない」といった会話の結果そうなったのかもと思うと(←まあ、勝手な想像ですけど)少々悄然とせざるをえませんね。そこを安易に変えてしまう位ならオリジナルで勝負すればいいのです。

*1:コメントをいただいたように、織田裕二主演