酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

高橋源一郎(著)
知人のK氏に薦められて読みました。
世の中には「小説の書き方」という本が沢山ありますが、結局そうした本のおかげで”直接”小説家になれた人はあまりいないのではないでしょうか。凡百の類書と本書の大きな違いは、厳粛な事実、すなわち「小説家は、小説の書き方を、ひとりで見つけるしかない」ということを前書きの中ではっきりと示しているということでしょう。
でも、そうだとすると、この本が伝えてくれることは一体何なのでしょうか?それは小説と遊ぶ方法、すなわち世界の中に書かれている「小説」を見つけ、遊び、そしてまねて親しむ方法(というよりもヒント)なのです。「小説を書く方法」は小説を書くという行為に対してはメタレベルの話ですが、この本は更に一段メタな話「「小説を書く方法」を見つけるためのヒント」を示しています。
大変面白い本だと思います。文章力を上げるためのノウハウ本ではありませんが、もし小説というものを深く味わったり、その創作に携る気持ちがある方ならなお一層興味深く読めるのではないでしょうか。
本書中でも紹介されているケストナーエミールと探偵たち (岩波少年文庫 (2012))」を再読してみたくなりました。はるか昔子供の頃に読んだときには気が付かなかった多くのことを今なら読み取れるような気がします。