「偽装問題」「年金問題」などでいままで安全だと思われていたものが崩れ、信頼が失われたここ数年ですが、本書は「安心」(信頼)がどのように形成されるかを、社会心理学的に解説した入門書です。
(心理学の教科書にはありがちなように)ある意味常識的な事柄ばかりが書いてあるとも言えるのですが、個別のモデルを並べてみると不整合がおきるケースもあり、それを私たちの多くは「まあ色々あるし」で片付けてしまいがちですが、心理学者達はそれらのモデル間の矛盾の擦り合わせをどのように行うべきかをずっと議論しているようです。
- 二重過程理論
- 非対称性モデル
- 二重非対称性モデル
- 主要価値類似モデル
といった耳慣れないモデルについて学ぶのも興味深いですし、心理学者の方法論を垣間見ることができるのも、知的刺激があります。技術者はともすれば「安全さえ確保しておけば、安心はあとからついてくるだろう」と考えがちですが、安全は安心のための必要条件であるに過ぎず、十分条件ではないことに留意する必要があります。
また本書121ページにある指摘「関心の高い人にとっては結果が重要だが、関心の低い人にとっては結果よりもプロセスが信頼には重要ということである」というくだりは、思わずニヤリとしてしまいました。
テーマは安全と安心の心理学ですが、日々ビジネスでお客さんに「納得」して貰うにはどうすれば良いかを悩んでいる営業さんや技術担当者たちにも基礎知識として知っていて欲しいような内容だと思いました。