酔眼漂流読書日記

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コピー用紙の裏は使うな!―コスト削減の真実

コピー用紙の裏は使うな!―コスト削減の真実 (朝日新書 37)

コピー用紙の裏は使うな!―コスト削減の真実 (朝日新書 37)

企業のコスト削減をテーマにした本ですが、より広く「継続的なプロジェクト」のあり方に対するヒントがコンパクトにまとまった良書です。またともすれば「暗い」とか「必要悪」だとか思われているコスト削減のテーマが、関係者の積極的な対話を促し効率的な組織を作り上げるための効果的な方法であることもわかりやすく示されています。
実際こうした「コスト」をきちんと見据えた「コストデザイン」の視点は、企業だけでなく、国家・行政レベルから一般家庭のレベルまでありとあらゆる場所に必要とされているように思えます。
一度組織を作ると、人間はとかくその組織内の与えられた「役割」だけに閉じこもり、全体の最適化に心を配れなくなっていきがちですが、部分最適化が必ずしも全体最適化を生み出さないことからもあきらかなように、組織の各人が全体に関心をもてるような「組織文化」を維持することが、健全な組織のためには何よりも大切なことだと思えてきます。
もちろん組織論だけではなく、コスト削減の発想もきちんとまとめられています。本書ではコスト削減の手順としては

  • 調達改善
  • 運用改善
  • 設備改善

の順に手を付けていくことが推奨されていますが、安易に「IP電話を導入すると通信費が安くなるだろうか」(=設備改善)といった議論をする前に、即効性があり効果的な改善がたくさん隠れている可能性があることを示しています。
改善活動そのものは以下の5つの視点が必要であると本書では述べています

  • 見せること
  • 任せること
  • 検証すること
  • 評価すること
  • 分配すること

最初の4つはある意味普通ですが(いわゆる PDCA サイクルの議論などにはつきもの)、最後の一つが少し新鮮でした。つまり、「改善して、その結果どういう嬉しい果実を私たちは手に入れることができるのか?」ということに関する具体的な目標を分かち合うべきということです。単純に「会社の利益が伸びれば良い」というだけでは、やる気が起きなくても、仕事の環境を含んだ様々な改善(余裕ができたら、スタッフを増やそう、研究開発に投資しよう、オフィスをきれいにしよう、もちろん報酬を上げよう、などなど)とセットにして目標を話し合うことができれば、コスト削減をする人たちのやる気も違うというものです。