英単語のあぶない常識―翻訳名人は訳語をこう決める (ちくま新書)
- 作者: 山岡洋一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/07
- メディア: 新書
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next year と the next year の違いは何だろうか?英和辞典をひいてみると、いずれも「翌年」という訳語が挙げられている場合が多い。しかし、実際の用例を調べて行くと next year は「来年」(今年の次の年)であることが多く、the next year は「今後一年(これからの一年)」であることが多いそうである。
もっともこれは the next year に前置詞がついた場合("in the next year" など)であり、単独で the next year が出て来るときには「来年」の意味が多くなる。
この違いをみきわめようと、有名な英和辞典を読んでもあまりはっきりとはこの違いがわからない。
といったような内容の検討を事細かに行う本書は、翻訳に携わる際に、英和辞典の「定訳」に頼る事の危険性をこれでもかと教えてくれます。
考えてみれば現在の「定訳」も歴史の中で段々定まってきたものであり、完全な正解というものでもないわけですね。
他にも沢山の「定訳の常識」を疑う例が出て来ます。
まあ何回か翻訳に真剣に携わっていると、こうした危険性には意識的/無意識的には気が付くようになり、英和辞典よりも英英辞典やネット上の実際の用例を見ながら日本語をひねり出そうと呻吟することになりますけれど(そして却って翻訳速度が落ちたりします)。
以下目次から数例挙げておきましょう
IMPROVE は「改善する」か
→「悪いものをよくする」より「さらによくする」がずっと多い
INCLUDE は「含む」か
→「ドイツ、フランスを含むヨーロッパ」という訳はおかしい
PERIODICALLY は「定期的に」か
→間隔が決まっていない例も半分はある
TRADITIONALは「伝統的」か
→「以前の」や「普通の」に近い
SIMPLY は「単純に」か
→実は使えない「単純に」や「簡単に」
訳書を読んでいて、何となくおかしいなと思ったときにはこうした微妙な「誤訳」が紛れ込んでいる可能性が高いと思われますね。