酔眼漂流読書日記

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プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー

実はこの本を読んだ後に「もう牛を食べても安心か (文春新書)」を読みました。つまり「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)」→「プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー (ブルーバックス)」→「もう牛を食べても安心か (文春新書)」の順に読んだわけで、これはちょうど書かれたのは逆の順番でした。
福岡伸一氏の著作は、いずれも一種のミステリーを読むような興奮を覚えます。謎の提示の仕方、そしてその解き方が上手ということなのでしょうね。
さて本書は BSE の「病原体」であると「言われている」プリオン(伝染する蛋白質)について解説したものです。「言われている」と「」付で紹介したのは、結局このプリオンなるものが、直接病気の原因になるということを、まだだれも突き止めていないからなのです。そうはいってもプリオン説の提唱者(プルシナー)はそれによってノーベル賞まで受賞しています。何が起きたのでしょうか?
本書ではプリオンによって引き起こされているといわれている、羊のスクレイピーや、ヒトのヤコブ病、そして近年急に増え始めた狂牛病の歴史を振り返りながら、疫学的な考察を重ね、さまざまな研究者の業績を引用しつつ、プリオン説の謎に迫っているのです。
これを読むと、BSE が政治的駆け引きの道具にされて、輸入を再開するのなんのと言っているような状況ではないこともよくわかります。なにしろ、分かっていることは BSE は経口で伝染するものの、結局それが何がいかなる形で人間の脳に入り込みヤコブ病として発現するのかが結局まだ何も分かっていないのです。
病原体が未知のウィルス(あるいは核酸をもった何か)では「ない」こともまだ証明されてはいないのです。
本書の最後の方で述べられる C 型肝炎ウィルス発見のエピソードは、この課題に取り組む生物学者たちの苦難の道のりと、その勝利へのシナリオの一部を垣間見せてくれるものです。
結局これだけ科学や技術が進んだようにみえる現代でも、人間のできることはきわめて限られた範囲で、それこそ真理の大海を前にして、砂浜で足を濡らす程度のものなのかもしれません。
今回の順序で読んだ場合は「もう牛を食べても安心か (文春新書)」はあまり読まなくてもよかったかもしれません。内容が他の2冊と結構重なる部分もあるからです。もしこれから読まれるとしたら、
1冊だけなら「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)」を、2冊なら「プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー (ブルーバックス)」→「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)」の順番で読むほうがやはりわかりやすいかもしれません。