- 作者: 西原理恵子
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2008/12/11
- メディア: 単行本
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西原理恵子氏の作品は「恨ミシュラン」からの付き合いですが、読み始めはともかく、最近の極彩色のコマ割やこれでもかと小ネタを詰め込んだスタイルは少々息苦しくもありました(笑)。
それに実在の人物を使った危なくも捨て身のギャグは、あざとさも感じられて苦手意識があったことも事実です。
そんな中で、異色の作品が「ぼくんち (ビッグコミックス)」でした。貧乏で小狡くて、気のいい奴もいるけれど、全体に駄目駄目な大人と子供がわんさか出てくるまるでおとぎ話のような漫画です。
この「ぼくんち」はその破天荒な内容にも関わらず、読む者に大きなインパクトと感動を与えずにはいられない西原氏の代表作のひとつだと思います。
今回ご紹介する「この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)」は、その「ぼくんち」の世界がおとぎ話でもなんでもなく、作者の若い頃の実際のできごとを題材にしていたことがよくわかる本です。
本書はこれまでの西原氏の人生の歩みを、特にカネとの関わり合いを中心に回顧した内容のものとなっています。
これを読めば、なぜ西原氏があれほどまでにあざとく、貪欲な表現を追求するのかが理解できるようになるでしょう。もちろん作品そのものの好き嫌いは作者のバックグランドとは関係ありませんから、相変わらず彼女の作品は露悪的、偽善的で嫌いだと言う人も沢山いることと思います。
私も、この本を読んだからといって、全ての作品が好きになる訳ではないと思いますが、西原氏が仕事に人生を賭け、自分を自由にしてくれるカネを自分の力で勝ちとることを、どれだけ大事に思っているのは知ることができました。
自分探しをして悩む暇があるなら、具体的に手を動かして、生きたカネを掴むべしという、ある種身も蓋もないアドバイスは、社会に出ることを恐れ躊躇う若者に一歩踏み出す勇気を与えてくれるかもしれません。
またこの本の中には西原氏が直接対峙して来た、さまざまな悲惨な出来事も書かれています(本人の問題だけではなく、実父、養父、夫なども含む)世界で起きている、もっと酷い出来事に比べればまだましとはいえ、現代の日本で身に降り掛かったこととしては十分な悲劇だと思います。決して同情を引こうとするわけではなく、淡々と出来事を綴る西原氏の筆致が、余計にその辛さを際立たせるような気がします。
万人に勧められる本ではないような気もします。元々は若者対象に企画されたシリーズ本の一冊ですが、リストラの嵐で自殺者が目立つ中高年男性層にも読んで貰いたい本かもしれません。