酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

Tesoro - オノ・ナツメ初期短編集

TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008 (IKKI COMICS)

TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008 (IKKI COMICS)

間が開いてしまった本のご紹介ですが、何故か今回もオノナツメ氏の本です。Tesoro とはイタリア語で「宝物」という意味ですが、この愛らしい作品集のタイトルとして相応しいものといえるでしょう。
オノナツメ氏がデビューする以前の 1998 年の短編や、1996 年のイラストなどから、2008年の短編作品までが拾い集められています。
その絵柄もお話の内容も、全く現在のものと比べてぶれがありません。
親子、友達、家族など近しい人たちの間におきる日常のささやかな出来事を、どちらかといえば寡黙な登場人物たちの様子と、映画のようなカメラワークで切り取り、読者の前へそっと差し出します。
複数の視点が交錯し、ささやかな喜びと失望とを織り交ぜながら続いていく人生の数コマは、読み手にさまざまな感情移入を許し、いくつもの人生を辿る事を可能にします。
しかし決定的な悪意を持つ人物が登場しないところが物足りないと思う方もいらっしゃるかもしれません。現実の人間はもっと愚かで自己中心的な場合も多々あるからです。
not simple (IKKIコミックス)」のような救いのなさはここには登場しません。その意味では「安心して」読む事のできるものであることは確かです。