酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

からくり民主主義

からくり民主主義

からくり民主主義

苦しい本です。とはいえ内容がつまらないという意味ではありません。
現代の日本社会の中で「存在する」とされる様々な問題の現場へ著者が直接出かけて行き、現場の人々に話を聞いたり問題を歴史的に整理しようとした記録をまとめたものです。この手のノンフィクションの手法では、まがりなりにも最後には著者なりの解決の方策が読者に示唆されて終わることが多いのでしょうが、この本では相互依存した問題の構造を配置した後、それらがどうにもこうにもほぐしようもなく絡み合っていて、どこから手をつけるべきかで悩む著者の姿がそのまま描かれています。とりあげられている現場の一つ、諫早湾問題等もまさにあちらをたてれば、こちらがたたずの典型です*1
そういった意味で「苦しい」本なのですが、もっともらしい結論に飛びつかない、こうしたルポルタージュがあってもよいと思います。とはいえわかりやすい「正義」を求める読者が多い市場で、ノンフィクションライターとして、成功するのは難しいかもしれませんが(^^;。

*1:もちろん行政の「怠慢」を責めるのは容易いのですが、著者はそこへ向かって読者を誘導したりはしません