酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

大人の見識

大人の見識 (新潮新書)

大人の見識 (新潮新書)

仰々しいタイトルですが、内容は決して説教臭かったり堅苦しかったりするものではなく、著者の阿川氏がこれまで見聞したり、交流のあった「大人」のひとたちの立居振る舞いや、その言葉を紹介した本です。
本で得た知識ではなく、同時代を共に生きた著者の語り口は、現場にいたものだけが持ちえる迫力を持っています。

決して古い価値観、保守的な価値観だけをよしとしているわけではなく、あくまでもひととして、一歩先を見据えた冷静な態度とはどのようなものかを紹介しようとしているようです。

ユーモアを重視する英国人の態度を褒めていますが、一方その英国人が海外でなした数々の悪行についても触れています。決してどこかの民族の価値観を手放しで褒めているわけではなく、あくまでもある姿勢「冷静さと寛容さとそしてユーモア」を描こうとしているのでしょう。

例えば英国議会のあるエピソードが紹介されています(そのままの引用ではなく大意)

ある国会議員スコットランドの差別発言をします「イングランドでは馬しか食べない燕麦を、スコットランドでは人間が食べている」。日本ならこれだけで大騒ぎになって国会議員の罷免騒ぎにもなるでしょうが、このときスコットランド選出の議員は「だからスコットランド人は優秀で、イングランドでは馬が優秀なのだ」とさらりとかわし、議会は爆笑に包まれてその問題はそれでオシマイ、以後粛々と議論が続いたそうです。

目の前の些事にいちいち深刻に構わず、ユーモアで切り返し、本質的な議論を見失わないようにする。こうした態度は特に日本のマスコミの報道にも見習って欲しいような気がします。

昨年大騒ぎになった「偽装騒ぎ」なども、ヒステリックな罵倒だけでは、結局何の問題解決にもなりません。罵倒された方はただ頭を下げ嵐の過ぎ去るのを待ち、そして同じことの繰り返しになるだけです。単純な「善良な市民 vs 悪辣な業者」という単純な図式にとどまらず、その状況を生み出している構造的矛盾を考えた方がよい時期に来ていると思います。

と、以上ユーモアのかけらもない感想文で申し訳ない(笑)。