酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

<不良>のための文章術 NHKブックス

永江 朗 (ASIN:4140910054)
文芸としての文章ではなく、伝達のための文章を書くための指南書としては、いままで「理科系の作文技術」(木下是雄)ASIN:4121006240、「日本語の作文技術」(本田勝一ASIN:4022608080、といった本がありました(他にもあると思いますが)。この二つの本は正確で明快な文章を書くための秘訣を教えるためのもので、必ずしも理科系に限定されず多くの人の役に立つ良書です。ただ、これらの本は確かに技術書や報告書を書くための役には立つのですが、必ずしも「面白い」文章を書くためのヒントになるとは言えませんでした。
さて、この「<不良>のための文章術」はそうした基礎の先にある「面白い」(言葉を変えれば「売れる」)ための文章を書くにはどうすれば良いかを伝えようとするものです。内容はきわめて具体的に、本の紹介文やグルメ記事、街歩きの記事などを遂行していく過程を見ていく形式になっています(ときどき「こんな書き方をしてはいけません」と言いつつ、物議を醸すような例題がでてくるのは、永江氏の読者サービスかもしれません)。さて学校教育などはじめとして、多くの文章術では「5W1H」の大切さを説いています、もちろんこれはこれで大切なのですが、それらが満遍なく網羅されているだけでは、ともすると「退屈」な文章になってしまいがちです。本書では特に「WHYとWHAT」に力を割くべしと述べています。読者の興味を引っ張り続けるためには適度に「何故だろう?」という餌を撒き続けることが必要だからです。
他にもヒントが満載です。とても面白く、参考になりましたが、ここにそう書いてしまうことに若干のためらいもあります。なにしろ「参考になった、という割にはちっとも文章が面白くなっていない」と言われる可能性が大きいからですが、そうしたリスクを冒しても敢えて紹介したかったという気持ちを諒として下さい(←見苦しい言訳)。
ところで、この本を店頭で眺めたときに、思わず笑ったのが以下の前書きでした。実はここで笑ったせいで気が付いたときにはレジの前に立っていたようなものです。これまたここに引用するのは天に唾するものかと怯えつつも、引用します。

* * *

なぜ文章を書きたいのかと問われて、「自分を表現したいから」「自己実現のため」という人は、プロの書き手になるのはやめてください。読者が(それ以前に編集者が)迷惑します。誰もあなたのちっぽけな「自分」、ありもしない「ほんとうの自分」なんか読みたくありません。関心もない。自分を表現したいという人は、誰にも迷惑をかけないように、こっそり日記でもつけて、ときどき自分だけで読んでください。