酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

詩歌の待ち伏せ〈上〉

北村 薫 (ASIN:4163586202)
ということで、間にノンフィクションを一冊挟んで再び北村薫氏の本です。この本は小説ではありません。北村氏がいままで出会った数々の詩歌との出会いを綴ったエッセイです。ことさらに、紹介されている詩歌をご自身が「発見」したと書く代わりに、それらとの思わぬ出会いを、あたかも「詩歌の待ち伏せに出会ったようだ」と書く北村氏の謙虚な姿勢に、思わず背筋を伸ばしたくなる心持がします。
短いエッセイを次々と書き継いでいくのですが、初出が雑誌連載であったため、北村氏の問いかけに応えた読者諸氏からの便りに、また北村氏が応えるという流れも踏まえられています。
レイモンドチャンドラーと西条八十の意外なつながりへの言及や、無名の子供の詩の引用などなど、詩歌を巡る話題が万華鏡のように立ち現れてくるさまは、流石ですね。
個人的には、この中に引用された三好達治による萩原朔太郎への追悼の詩がとても印象的でした。
引用されていたのは一部だけだったのですが、図々しくもここに孫引きしてしまいます。


「わが師 萩原朔太郎

黒いリボンに飾られた 昨夜はあなたの寫眞の前で
しばらく涙が流れたが
思ふにあなたの人生は 夜天をつたふ星のやうに
単純に 率直に
高く 遥かに
燦爛として
われらの頭上を飛びすぎた
師よ
誰があなたの孤獨を嘆くか

もちろんこれ以外の一つ一つの章も皆味わい深いものです。多分しばらく持ち歩いてゆっくり読み返すことになるでしょう。