酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

真実の言葉はいつも短い 知恵の森文庫

鴻上 尚史 (ASIN:4334783120)
鴻上氏が過去に光文社文庫から出していた何冊かの本から、時事的なネタを抜き煮詰めたエッセイ集です。ほぼ10年ほど前に書かれていたエッセイですが、鴻上氏のファンならば彼の原点を確認するような喜びを味わうことができるでしょう。演劇、恋愛、人生についての鴻上氏らしい随筆が綴られています。
第一章の「あとがきにかえて(ファントム・ペイン)」というパートに書かれていた、事故で死んでしまった旗揚げメンバーをめぐる逸話は涙なしには読めない代物でした。またやはり第三舞台最初のメンバーで今は教師になっている男性が、鴻上氏に最近の生徒は?と聞かれて答えた言葉「傷ついた生徒は、二つに分かれるんだ。傷ついたからこそ優しくなれる人間と、 盤上の敵 (講談社文庫) 傷ついたからこそ誰かを傷つけようとする人間と。それが哀しくてね」といった心に残るフレーズをそこここに見ることができます(話はすこしそれますが、この「傷ついたからこそ誰かを傷つけようとする…」という言葉を読んだとき、北村薫氏の「盤上の敵」を思い出しました、これもまた暗く救いのない話ではあるのですが…)。
改めて鴻上氏は人間観察の達人であることを認識しました(まあ、こんなことを聞くと、ご本人はホメ殺しはやめてくれ〜と言うでしょうけれど)。