酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

翻訳はいかにすべきか 岩波新書 新赤版 (652)

柳瀬 尚紀 (ASIN:4004306523)
ジェームス・ジョイスの翻訳で有名な柳瀬氏による「翻訳家の実践の苦闘記」です。安直な翻訳のノウハウ本というわけではなく、七転八倒の苦しみと巧い翻訳が仕上がったときの充実感を、さまざまな実例を通して伝えてくれる本だと思います。
私も過去数冊の本を翻訳したことがありますが、技術書とはいえ、ここに書かれているような苦しみの片鱗を味わったことがあり、共感するところも大でした。
とはいえユリシーズの翻訳に関する章で、激しく他者の訳例の間違いを指摘しているところでは、そこまでやらずとも…と思わせるほどの激昂ぶり。いったいどうしちゃったのかなと思わせるほどです。まあきっとご本人の「喧嘩上等!」の態度が、他のお歴々の逆鱗に触れて、いろいろ水面下ではあったのでしょう(笑)。
後半が嫌いな読者もいると思いますが、翻訳を少しでも齧った方にはいろいろな意味で参考となる部分が多いと思います。私は楽しく読むことができました。