酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

幻惑の死と使途―ILLUSION ACTS LIKE MAGIC 講談社文庫

森 博嗣 (ASIN:4062730111)
ということで、犀川助教授&西之園萌絵コンビシリーズの第二幕第一作(シリーズ通算6作目)です。構想当初このシリーズは前作の「封印再度」で完結する予定だったそうですが、「全てがFになる」がシリーズ第一巻として発表されたため、改めて後半(本書から「有限と微小のパン」まで)が構想され直されたそうです。
さて、後半戦ということでそもそもの構成そのものに、色々実験的要素を取り込んでいるようです。例えばこの本には奇数章(1,3,5...)しかありません。次の「夏のレプリカ」には、これとは逆に偶数章(2,4,6...)しか含まれていません。これはこの二作が(作品世界内の時間的で)ほぼ同時に進行しているために、このような構成になっているとのこと。
まあこれは森氏らしい「お遊び」というべきもので、それ自身が作品に劇的な効果を加えているとは言えないのですが…(あるいは最初は本当に一つの物語にしようとしていたのですが、読者にとってあまりに煩雑だという判断が働いて二つに分けたのかもしれません。これとは別に身も蓋もない理由を想像することもできますが、単なる興醒めなので、ここで述べるのはやめましょう)。
ともあれ冷静を絵に描いたような犀川助教授もだんだんと人間臭い雰囲気を醸しだすようになってきたような気がします(ほんの僅かですけど)。まあこれは前作の「封印再度」での「微笑ましい」エピソードが多分に影響しているということでしょう。
しかしこの恐ろしいまでの執筆速度はどうしたことでしょう。「兼業作家」でありながら、このように結構長めのストーリーを3ヶ月に一度程度のペースで刊行するとは只者ではありませんねぇ。

他には(いかにもではありますが)解説のプリンセステンコーの文章も楽しめました。