酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

はやくはやくっていわないで

はやくはやくっていわないで

はやくはやくっていわないで

昨日紹介した「計画と無計画のあいだ---「自由が丘のほがらかな出版社」の話」の著者である三島氏の出版社「ミシマ社」の本を早速入手して読んでみました。紹介した本自身が大変面白かったのと、その中に「うちの本はターゲットを絞らない。0歳から100歳のひと全てに届けたい」という趣旨のことが書いてあったので、あえて「絵本」を注文。

もちろん絵本なので小さな子供と一緒に読んでみるのが一番楽しそうですが、大人でもふとしたときに本棚から、あるいはマガジンラックから取り出してパラパラと眺めてみる価値のある本だと思いました。

メッセージは単純です「ひとりひとりはちがう」「おさないで」「ひっぱらないで」「はやくはやくっていわないで」。。。そして「まっててくれる?」「まっててあげるよ」「みんないっしょ」。単純であるからこそ、そっと心に差し伸べられたような手に触れたような気持ちになれるかもしれません。

理屈であれこれ紹介するよりも、ミシマ社のホームページにも掲載されている、作者の益田ミリさん自身の言葉をまるまる引用しておきましょう。この気持を届けたいという思いに溢れた絵本なのですから。

わたしの心を温かくしてくれる思い出のひとつに、小学校一年生のときの教室でのできごとがあります。

その日、クラスのみんなでくじ引きを引くことになりました。なにをもらうためのクジだったのかは忘れてしまったけれど、楽しい雰囲気だったから、きっとレクレーションの時間だったのでしょう。

担任は若い男の先生でした。順番にクジを引きなさいと先生が言ったので、生徒たちはいっせいに前に走っていきました。

だけど、わたしはグスグズしていて出遅れてしまった。クラスメイトの中で一番ビリ。

こんな最後に並んだら、もういいものなんてもらえない・・・。

そう思うと悲しくて、せっかくの楽しかった気持ちもしぼんでしまったのです。

すると、思ってもみないことが起こりました。先生がわたしのところにやってきて、みんなの前でこう言ったのです。

「一番最後に並んでえらかったな」

わたしは先生に誉められてびっくりしました。びっくりしたけど、すごくうれしかった。うれしくて、うれしくて、もう35年も昔のことなのに、思い出すと今でも温かい気持ちになるのです。

先生は、最後の子供までちゃんと見ていて、待っていてくれた。はやくはやくって言わないで、待っていてくれたのです。

励まされたり、なぐさめられたり、人はたくさんの言葉を受け取って前に進んでいく。でも、一番うれしいのって、誰かが待っていてくれたことじゃないかなとわたしは思うのです。
ながく読みつがれる絵本になることを願って。

2010年10月
益田ミリ