酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。

この奇妙なタイトルは、本の書き出し部分に由来しているのですが、狐狸庵先生らしい随分と人を喰った題名です。

実はこの本が最初に出版されたのは 2006 年で、死去から10年経ってのことでした。あまり熱心な読者でなかった私はこの本が出版されたことに気がついていなかったのですが、最近たまたま文庫本を手に取る機会があり、読んでみることにしました。

当然死者が新しい原稿を書いてくれる訳もありません。この原稿はなんと最初に書かれたときから、45年もとある編集者に託されたままになっており、出版されぬままようやく陽の目をみたというものだったのです。

本書の直接的なテーマは「手紙の書き方」です。しかし読むと分かりますが、その内容は「人に気持ちを伝えるための文章の綴り方」といったものです。そうなると、時代的な古さは少しあるものの、今でも立派に通用する内容の本だといえるでしょう。なにしろ私たちは電子メールの普及によって、かつてないほどの「筆まめ」な時代を生きているのですから。

実際、昔の作家が良く書いていたような「文章讀本」の類を本書が出るまでは著していなかった狐狸庵先生だったのですから、これは埋もれていた原稿を発掘できた編集者のお手柄ということができるでしょう。

具体的なテーマを並べながら、添削するように手紙を書き直していくといった内容は、優しい文体と相まって、ゆっくりと身体のなかに落ち着いていくような気がします。
これ以外にも、ちょっとした文章修行のコツなども書かれていて、なかなか参考になりました。

とはいえ読むだけではなかなか文章は上達しないもの、これを契機にもっと人に伝える文章を書き綴ることにしたいものです。