酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

win = 勝利?

ふと思いついたので、英語/翻訳の小ネタを。

昨日の日記で「人を動かす 新装版」という本をご紹介しました。
この本の原題は

How to win friends and influence people

というものです。

さて、この原題を少し解剖してみましょう。
後半の

"How to ... influence people"

だけでも、「人に影響を与えるやりかた」ですから、「人を動かす」という日本語訳でも構わない気がします。

では前半の

"How to win friends"

はどういう意味でしょうか?。この本を読んで「友達に勝て」?これに後半も合わせて
「友に勝ち、人を操る方法」が原題でしょうか?
でもそれではなんだか怪しい洗脳プログラムみたいですね(笑)。

そうではありません。それではそもそもご紹介した本の内容とは矛盾してしまいます。

英和辞典を素直にひくと一番目に「勝利する、勝つ」という語義が出て来るので、「win = 勝つ」と刷り込まれている人は多いかもしれませんが、「win した結果何かを得る」という部分まで含んで考えると、「何かを得る」という意味の方が中心になることも多いのです。

手元にある Oxford English Dictionary を見てみると、三番目の語義として

to achieve or get sth that you want, especially by your own efforts
[拙訳]望むこと(もの)を(特に自分自身の努力によって)手に入れたり成し遂げたりすること

というものが挙げられています。

こうしたニュアンスを理解してから原題を見直せば

How to win friends and influence people
「直訳」友を得たり、人に影響を与えるやりかた

ということになります。

人に協力して貰ったり、納得して行動を起こして貰うには、なんらかの信頼関係が必要なので、その信頼関係を得る過程で「友」となるというのはごく自然なことでしょう。

本書の翻訳に携わった方々は原題の翻訳に頭を悩ませたことと思います。現在の邦題では「ひとを動かす」という後半の部分だけが強調されるので、ともすれば安直なノウハウ本と思われるリスクもあるからです。前半の「友を得る」の部分をうまく取り込むにはという議論もなされたことと思いますが、「友を得て、人を動かす」では長過ぎる、ということで後半だけになったのかもしれませんね。

人を動かす 新装版

人を動かす 新装版