- 作者:ベンジャミン・フルフォード
- 発売日: 2007/08/02
- メディア: 新書
正直紹介をためらわせるものもあります。それは著者のフルフォード氏の主張が、ともすると過度の「陰謀説」に肩入れしすぎているのではないかと思わせる記述もあるからです。その内容に詳細な検証を加えられない私の立場では、その事実関係に関しては留保せざるを得ない部分もあるのですが…
それでも敢えてここに紹介したのは、日本人がいかに情報を遮断されているかを示す一つの重要なサンプルが挙げられていたからです。これは容易に自分の目で確かめることができます。
それは、通称「年次改革要望書」と呼ばれる文書の存在です。正式名称は「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(The U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative)というものです。
この文書は、日米双方がお互いの政策に対して要望を毎年交換するという趣旨のものなのですが、その内容をみると如何に重要な案件が、「米国の要望」により実現されてきたかが如実にわかり、しばし愕然とします。
例えば以下のようなものです(Wikipedia より引用)。
- 1997年 独占禁止法改正・持株会社の解禁
- 1998年 大規模小売店舗法廃止、大規模小売店舗立地法成立(2000年施行)、建築基準法改正
- 1999年 労働者派遣法の改正、人材派遣の自由化
- 2002年 健康保険において本人3割負担を導入
- 2003年 郵政事業庁廃止、日本郵政公社成立
- 2004年 法科大学院の設置と司法試験制度変更
- 2005年 日本道路公団解散、分割民営化
- 2007年 新会社法の中の三角合併制度が施行
これは何も秘密の文書でもなんでもなく、米国大使館のホームページからたどることが可能で、しかも日本語の仮訳も添えられています。つまり極めて公式かつ重要な文書なのですが、なぜか日本の報道機関が正面から取り上げて論じる来ることはありませんでした。遅かれ早かれ「年次改革要望書」の内容が着実に実現され続けているにもかかわらずです。
一時話題になった「ホワイトカラーエグゼンプション(いわゆる残業代ゼロの合法化)」も、この文書に由来したものですが、さすがに現時点では猛反発にあって進捗が停滞しています。しかし今までの実績を振り返れば結局何らかの形で実現していく公算は大きいと言えましょう。
日本人のメディアリテラシーはまだまだ弱いと思わされる本です。しかし興味深いことに、先進的と思われている欧米でも、その実態はあまり変わらないという事情も報告されています。
この国の歪みは確かにおかしな段階に来ているような気がします。まず最初の一歩は「何かおかしいのでは?」という素朴な疑問を抱くことからでしょう。
そういえば前日紹介した「2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)」にも興味深い事例が紹介されていました。それはいわゆるライブドア事件を巡る著者の素朴な疑問でもあるのですが、結局堀江氏の「罪」はどれほどのものなのだろうかというものです。
ライブドアの粉飾疑惑は約53億円と伝えられています。数十億円を粉飾して金儲けに邁進した堀江氏は、なるほど悪者なのかもしれません。でも結局は「粉飾決算」なのです、同時期に発覚した日興コーディアルグループの粉飾決算は180億円もの規模なのに、訂正勧告と課徴金5億円で、刑事罰を受けた人はいないのです。これに対して堀江氏は刑事罰(実刑)を受けた上に、ライブドア株式も上場廃止になり相当規模の金銭的ダメージも受けています。何故このような、恣意的な法律の運用が行われているのでしょうか。
疑問は尽きませんね。