酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

知財戦争 (新潮新書)

三宅伸吾 (著)
知的財産権(略して知財)の重要性は、ここでわざわざ取り上げるまでもありませんが、世界の企業活動にますます多大な影響を及ぼすようになっています。この本は現在知財をめぐる状況とその最前線で起きている「戦い」をコンパクトに報告してくれます。取り上げられている具体的事例は、たとえば「青色ダイオード」「医療技術特許」「漫画喫茶とブックオフ」「レコード輸入制限」「ミッキーマウス保護法」「ウィニー事件」などなど。また中国、米国、欧州他の特許戦略についても述べられています。
技術の最前線での国際的な特許争いが熾烈化しているなかで、衝撃的な数字としてあげられているのは、例えば2003年の司法試験合格者約1200人のうち、理工系大学の出身者がたったの7人しかいないこと、あるいは日本の全裁判官約2300人の中で、やはり理工学系出身者が10人未満しかいないことなどです。これでは高度な案件を扱うには人手が足りそうにありませんね。
こうした数字的な指摘のほかに、政府のさまざまな審議会における法律家の保守性などにも言及しているのも興味深い点です。経済・社会環境の変化に合わせて新たな制度の創設と必要な立法を検討している場所で、現行の法律に固執した議論がとても多いそうです。そうした方々は新たな制度提案に対してはことさらに細かな弊害の危険性を指摘するばかりで、私案は絶対に披露しないそうな。議事録が残っているのでならべてみると、見事なまでの紋切り型発言のオンパレード。いわく「わが国の法体系には耐えられない」「歴史文化の所産たる法の調和の取れた発展が阻害される」「拙速な法改正は疑問である」「今後、慎重な検討が必要である」などなど。
また知的財産権の扱いはどうしてもお役所横断的にならざるを得ないのですが、それが余計な軋轢を生み出して、議論の進展が阻害されていく様子なども描かれています。知的エンターテイメントとしても楽しめる一冊ですね。