- 作者: T.E.カーハート,Thad E. Carhart,村松潔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/11
- メディア: 単行本
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アメリカ人らしい好奇心の持ち主の著者は、中古ピアノを探している振りをして、この店をのぞいて見ますが、店の主人にはすげなくされるだけで、なかなか相手にして貰えません。そもそも、入口から入っても店の中は狭く、特に部品らしい部品も並んでいるわけではありません。会ったその日からファーストネームで呼び合うアメリカ人にとっては、隔靴掻痒の出来事ですが、あるときふとしたきっかけから、この店の本当の姿を知ることができるようになります。
実は店の奥には 18 世紀以降製作されたあらゆるピアノが並んでいました。そうここはまさしくそうしたピアノの修理と仲介を行うお店だったのです。元の持ち主の手をはなれて、パリの小さな工房にたどり着いた様々なピアノたち。スタインウェイ、プレイエル、ファツィオーリ、ベーゼンドルファー、ヤマハ、ベヒシュタイン、エラール…。それぞれのピアノはそれぞれの歴史を背負い、新しい持ち主を待っています。
そこからひらけるピアノとピアノを愛する人々の世界は本当に豊穣なものなのでした。技術に拘る職人に対して注がれる視線も大変暖かいものです。彼らにとってはピアノは一つ一つが異なる生き物のようなものなのです。
音楽好きの人には皆お勧めしたいのですが、この本を読む際には注意が必要です。私はピアノを弾くことができませんが、それでも自分自身のピアノを手に入れたい気持ちが湧き上がることを抑えることに苦労しました(笑)。まして、かつてピアノを習っていた人ならなおさら「自分のピアノ」を探しに行きたくなることでしょう。
この本の著者も、最初アップライトを買うつもりだったのに、職人と話をしているうちに素晴らしいグランドピアノに出会ってしまうのです。