酔眼漂流読書日記

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武装解除 - 紛争屋が見た世界

武装解除  -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)

武装解除 -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)

東チモール県知事日記」などの著作もある伊勢崎氏は、日本の民間人としては極めて珍しい経歴の持ち主と言えるでしょう。建築家への夢破れてインド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に関わったところから、国際NGO職員となってアフリカを駆け回り、東チモールでは国連職員として暫定政権下の「県知事」を任され、やっと日本の大学に職を得たかと思えば、外務省からのごり押しでアフガニスタン武装解除プロセスに駆りだされるといった具合。
伊勢崎氏が現場で見聞きした「国際支援」の経験、とくに治安回復支援に関わる現場の状況は、薄められた日本の報道では決して知りえないような、切羽詰ったリアリティを伴って迫って来ます。
著者は大部分の章では淡々と現場報告を感想とともに述べていくだけなのですが、読めばよむほど、問題の根深さと解決の困難さに溜息が出ます。また「国家とは何か」に対する根本的な疑問を読者に突きつけてくるように感じられます。
武力を持たない筈の日本が、アフガン復興事業ではなぜか「DDR武装解除、動員解除、復員処理)」の主導をとることになった奇妙な捩れについても、その状況が良く理解できました。最後の章では著者は少し挑発的な書き方をしていて、右も左も巻き込んだ論争を提起したいのかなと思わせます。まあこうした問題提起を真正面からとりあげて議論の俎板に載せることにできる政治家がいれば、まだましなのかもしれませんが…。
もちろん本書が答を与えてくれるわけではありませんし、著者の考えに全面的に賛成するわけでもありませんが「国際貢献」の問題を事実に基いて議論するためのきっかけとなる本だと思います。
(追記):本日付の読売新聞には米国高官による「日本の DDR プロセスへのより厚いコミットメントを期待する」談話が載っていました。