酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

ぼんくら〈下〉

ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

ということで、昨日に続いて(下)を読みました。この物語はミステリーの範疇に入るのだと思いますが、普通の「推理小説」にありがちな、何か派手な事件が起きてそれを探偵が快刀乱麻の如く解決し、読者の溜飲が下がるといったスタイルの構成とは全く違っています。
少しずつ謎が提示されて行き、それを解きほぐそうとする登場人物がいて、確かにいくつかの謎は解かれていくのですが、最終的に主要登場人物が集まった場所での謎解き大会などは行われずに、秘すべき謎は登場人物の一部の者たちの間に秘められたまま、日々の生活が続いていく。丁度北村薫氏の得意とするような「静かなる謎」の世界が展開されます。謎は読者に向けて解かれれば良いだけで、登場人物同士の間ではかならずしも解かれる必要はない。それによって、物語の余韻が深まります。
善人が必ずしも報われるわけではない、そして悪人が必ずしもきっぱりと裁かれるわけでもない、そもそもそうした表面的な善悪を越えた人の営みの綾をうまく描き出している作品だと思います。
信心深くもなく、いまひとつやる気のなさそうな同心、井筒平四郎がいわば探偵役ではあるのですが、自ら八面六臂の大活躍という風でもなく、むしろ多彩なバイプレイヤー達が物語を彩り飽きさせません。例えば美少年の甥「弓之助」や口述記憶の天才「おでこ」、岡っ引き嫌いの井筒平四郎の認識を改めさせた政五郎、若い差配人の佐吉などなど。

続編として「日暮らし 上」「日暮らし 下」が出ています。文庫化を待つのは辛そうです (^-^;。