酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

リセット 新潮文庫

北村 薫 (ASIN:4101373280)
「時と人」シリーズ第3弾。「スキップ」では青春をいきなりスキップして中年になってしまった人の話、「ターン」では同じ日が繰り返される人の話が描かれましたが、今回は…と書きかけて、何を書いてもネタばらしになってしまいそうな気がしてしまい、手が止まりました。
物語は第二次世界大戦前から始まり、戦時中の女学校の生徒たちの生活や、社会の雰囲気が丁寧に描かれます。そして戦争の悲惨。むごたらしいシーンがあからさまに描写されるわけではないにもかかわらず、主人公の目を通した哀しさが確かに伝わってきます。
その時代を共に生きた主人公の友人達、家族達とその後の運命は、当時の日本の、気が付けば引き返せないところまで社会的緊張が高まって行った様子をリアルに描いています。
そして物語は戦後10年ほどにとび、また新しい出逢いが描かれます。そしてその出逢いは獅子座流星群の思い出と共に、登場人物達を更に新しい出逢いへと導いて行くのです。内容をはっきり書けないのがもどかしいのですが、私にとってはこの「時と人」シリーズ3冊は、どれも大人のための良質のファンタジーでもありました。
特にこの最後の「リセット」は日常の些細なピースを組み上げて行く精緻なジグソーパズルのような作品だと思いました。