酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

<自己責任>とは何か

桜井哲夫 (ASIN:4061494031)

最近巷でよく耳にする「自己責任」という言葉を考察した書です。といっても出版されたのは1998年で、この言葉の「胡散臭さ」に早い時期から注目していた人も多かったことがわかります。自己責任という言葉そのものは、もちろん真っ当な考え方でもあるのですが、なぜこれほどまでに近年大声で叫ばれるようになってきたのか、その経緯を知り、力学を考えると、背中に冷たいものが走ります。「公」なる部分での責任が放棄されて、その部分の責を「私」に振り替えようとする動きに私たちはもっと敏感になるべきなのでしょう。
先日イラクで起きた日本人人質事件の際にもこの「自己責任」論が持ち出されていましたが、無条件で国民の生命財産を保護するのが国家の使命の筈にもかかわらず、「(自己責任なんだから)国の施策に反対する人間まで護ってやる必要はない」といった主旨の発言をする国会議員が出るに及んでは、「自己責任」の使われ方もいまや極北に達したという感があります。
自己責任という言葉は一見真っ当で、それ自身問題がないようにも思えます。しかしこの言葉の濫用が私たちの心にもたらす価値観のシフトは、やがて取り返しのつかないところまで私たちをつれていくような気がします。ちょうど昨日とりあげた「茶色の朝」に通じるものです。
これに対抗するには「自己責任」という言葉を使った「思考停止」を一度棚上げし、「それは何?」と改めて問わなければならないのでしょう。でも果たしてまだ間に合うのでしょうか。

またまたマジメな物言いで、やや自己嫌悪。移動の多い明日は軽い読み物を持参します(笑)。