酔眼漂流読書日記

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漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか?

漢文の素養   誰が日本文化をつくったのか? (光文社新書)

漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか? (光文社新書)

長い歴史の中で、アジアにおける文化の配布メディアの役割を担っていた「漢文」。要するに中国語は、日本のみならず近隣諸国に多大な影響をつい「最近」まで及ぼし続けていました。それでも、日本以外の国にくらべて、日本における漢字文化はやや特殊なようです。

  • 漢字を「外国の文字」とは見なさない
    • 中国でさえ、非漢民族は、漢字を異民族の文字とみなしている
  • 漢字に音読みと訓読みがある
    • 日本以外の国では、漢字は「音読み」だけで、訓読みはない
  • 一つの漢字の音読みが複数ある
    • 日本以外の国では一字一音が原則である
  • 漢字をもとに、いちはやく民族固有の文字を創造した
  • 中国に漢語を逆輸出して「恩返し」をした、唯一の国である
    • 幕末・明治に日本人が作った「新漢語」は、現代の中国でも普及している

漢字好き、日本語好き、歴史好きの人には楽しく読める本だと思います。音読みの中に入り交じる、「呉音、漢音」の成立過程の話なども人間臭いエピソードを興味深く読むことができました。

現在漢字が日本語の中で占める地位が低下するにつれて、豊かな語彙を生み出す造語能力も低下しています。街に溢れるカタカナ語がそれを物語っていますね。しかし、いまさら漢文読み下し文化に立ち返ることも難しそうです。新しい世代の「美しい」日本語表記をどのようにしていくべきかは、これからの大きな課題ですね。

なお、中国には人間関係を表す豊富な語彙/詩歌がありますが、歴史的文化的にごく早い段階から洗練されていたことがその一番の理由でしょうね(日本で漢字文化が華開くのはやっと8世紀頃、すなわち複雑な概念を表すさまざまな語彙が日本語に投入されたのもせいぜい6世紀ころからということのようです)。

また逆に日本語も現代中国語に多大な貢献をしています(本書209〜210ページ)。

現代中国語の「高級語彙」は、実は、半分以上が日本漢語である。例えば中国語で「中華人民共和国憲法規定的権利和義務」(中華人民共和国憲法がさだめる権利と義務)と言うとき、純粋な中国漢語は「中華」「規定」「的(の)」「和(と)」だけで、「人民」も「共和国」も「憲法」も「権利」も「義務」も、日本漢語からの借用である。日本漢語を使わなければ、今日の中国人は、一刻たりとも文明生活を営めぬ状態になっている。

これは別に中国の人々を侮辱しているわけではなく、単に両国が漢語という共通要素を使って深く結びついていることの指摘に過ぎません。

こうした歴史的経緯を知ることは大変知的に刺激的なことです。