酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

面白い小説を見つけるために (知恵の森文庫)

小林信彦(著)
かつて「小説世界のロビンソン」というタイトルで出版されたものを改題し、若干の加筆修正を加えて出版された本。小林信彦氏の読書体験とからめる形で、小説の成立とその面白さを伝えようとする力作です。最初は1984年から1987年にかけて「波」に連載されたものですが、内容は決して古びてはいません。そもそも取り上げられている小説が200年以上にわたるレンジから選ばれているのですから、数年の違いが問題になる筈もありません。小林信彦氏の小説を一つでも読んだことがあれば、彼が如何に「物語」にこだわる人かはおわかりだと思います。自ら「物語至上主義者」と名乗ってはばかりません。
そして物語の魅力を小林氏はこう述べています


<物語>というのは、ミュージカル映画やポップスと同様に、ある種の
感覚なのである。ノリと言っても良い。その感覚さえあれば、解釈とか
分類は、もう、どうでもよくなる。作者の思うがままに引きずりまわさ
れ、どうして、どうしてこうなるの、教えて!と叫び、もし<大団円>
の辺りのページが抜け落ちていたら、タクシーを飛ばして、夜中にあい
ている本屋を探しまわる――そういうものではあるまいか
また別の場所ではこのようにも述べています

ぼくにとってベストの小説とは、くりかえすようだが、<登場人物
とともに長い人生を生きたと実感できるような小説>である。
この言葉は北村薫氏が述べている(資料がいま手許にないのでうろ覚えですが)

人が小説を読むのは人生がただ一度きりであることへの抗議なのです
という言葉とも符合します。古典と呼ばれる小説も改めて読んでみたくなる気にさせる、本好きの人皆にお勧めしたい本です。少しクドイ感じもありますけどね、それゆえ胃にもたれないようにゆっくりと楽しむべき本だとも思います。