酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

東京命日

東京命日

東京命日

一昨日にご紹介した「ラスト.ワルツ―Secret story tour」の出版から2年。島田虎之介氏の最新作は、前作をしのぐ仕上がりです。複数の人物の人生が並行して描かれそれらが様々に交錯するという手法は前作と似通っていますが、前作が単純な織物だとすれば、今回はペルシャ絨毯のような細密さということができるでしょう。
広告制作会社の新人ディレクター、ピアノ調律師、人気ストリッパー、広告代理店のカリスマ・クリエイター、消防士といった多彩な人々、そしてそれに連なる親子の物語が濃密に織り込まれ思わず引き込まれるように読んでしまいます。大きな事件らしい事件があるわけではありませんが、「そして人生は続く…」といったエンドクレジットこそが相応しい終わり方をします。これは映画などでは表現することは難しく、適宜読み返すことのできる紙媒体でこそ可能な形式だと思いました。小説では今回のような多くの登場人物の顔と名前を一致させるためには大幅な紙幅を必要とすると思われますが、コミックの強みで顔と性格が結びつけ易いため、よいバランスとテンポが実現されていると思います。
小津安二郎の墓の前で始まり、また最後も同じ墓の前で終わる物語。この本はまた小津映画へのオマージュでもあるのでしょう。
3作目はまた2年後でしょうか。待ち遠しい限りです。