酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

スコットランドの漱石 文春新書 398

多胡 吉郎 (ASIN:4166603981)
ロンドンに留学していた夏目漱石は、帰国直前の1902年の秋にスコットランドを訪問しています。この旅は PITLOCHRY (ピトロホリ)という街に暮らすジョン・ヘンリー・ディクスンという人物の招待を受けてのものでした。ディクスン氏の屋敷はダンダーラック・ハウスと呼ばれ、いまでは高級ホテルになっているそうです。
本書の構成は、は著者がこの漱石スコットランドの旅の足跡を辿りながら、その旅が漱石に及ぼした意味を考える前半と、この漱石が過ごした時代のスコットランドの様子を伝える後半に分かれています。直前に「スコットランド 歴史を歩く(ASIN:400430895X)」を読んでいたので、特に後半が楽しめました。「歴史を歩く」の方が主に17世紀から19世紀の中ほどまでを扱っているのに対して、この本は漱石が英国に滞在していた19世紀から20世紀への移ろいを描いているので、歴史的なつながりがよく理解できたような気がしました。なお漱石の滞英中である1901年(20世紀最初の年)にヴィクトリア女王崩御し、漱石もその日記に喪に服した旨を記録しています。これは大英帝国の凋落の始まりを象徴する出来事であったようです。
なお上記ピトロホリのダンダーラック・ハウスに隣接する形で、シングルモルトのブレア・アソール蒸留所があるそうです。漱石が滞在したときには既に操業していましたから、夏目漱石は早い時期にスコットランドシングルモルトを嗜んだ日本人の一人であるのかもしれません。