矢崎 節夫 (著)
大正末期、童謡の世界に彗星のように登場し、数百の詩と幼い娘を残し早世した天才詩人金子みすゞ。その作品は歴史の中に長い間埋もれたままでした。本書の著者の矢崎節夫氏は、かつて岩波文庫にただ一編だけ収録されていた「大漁」という詩に衝撃を受け、みすゞの他の作品を探し始めますが、なかなか手がかりを見つけることができませんでした。それから紆余曲折を経て16年後にみすゞの実弟にめぐり合うことができ、その手に託されていた三冊の手書きの詩集に出逢いました。1982年のことです。これにより、忘れられていた詩人金子みすゞの復活が果たされ(1984年に「金子みすゞ全集」が出版された)、世間にブームを起こすことになりました。
この本は矢崎氏がどのように金子みすゞの作品と巡りあい、影響を受けたかについてを語ると共に、代表的なみすゞの詩をいくつか引用しながら、それに対する想いを綴るという構成になっています。この素晴らしい作品世界を読者と一緒に旅をしたいという気持ちに溢れています。金子みすゞの作品に触れ、更に詩人の人となりに興味を持った方にお勧めします。
ところで本筋とはあまり関係ないのですが、矢崎氏が至光社の武市八十雄氏から聞いたという逸話が面白かったので引用しておきましょう。武市氏が南の島の会議に参加することになったとき、島の人たちに質問しました「この会議はどのような物差しで運ばれているのですか?」会議の司会者らしき人がにこにこ笑いながら、次のように答えたそうです。
第一は、面倒なことだったらしない。
第二は、それでもどうしても本気で、好きで、やりたいという人がいたら、その人にやらせる。
第三は、その人がうまくいった時はよいが、もし成功しなかった場合は、あんなに夢中になってやった人がうまくいかなかったのだから、われわれはやらなくてよかったと考えよう。
特に「本気の少数意見」を無視しない第二の原則が微笑ましいと思いました。