酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

UML モデリングのエッセンス 第3版

UML モデリングのエッセンス 第3版 (Object Oriented SELECTION)

UML モデリングのエッセンス 第3版 (Object Oriented SELECTION)

二日続けて仕事本のご紹介…。
さて今回で第3版となる、マーチンファウラー氏による UML 解説本です。正直な話私は過去1版、2版と出版されてきたこの本が存在しなければ、UML の命運はもっと変わったものになっていたのではと思わずにはいられません。
すなわち複雑さを増す UML に嫌気がさしたエンジニアたちが、結局「プログラミング言語としての UML」だけに活路を見いだして(要するにコンパイラによって完全に機械化された世界だけを見るようになって)、所謂上流の記述では結局 OMT (古い話です)レベルの世界に踏みとどまったままというシナリオもあり得たと思うのです。
ところが、このファウラー氏の本は、UML の膨大な世界の中から、まさにその核となる部分を掴み出して、その意味と位置付けを解説してくれる希有な本なのです。このおかげでかろうじて概念モデリングレベル、スケッチレベルへの UML の適用が現実的なものとなりました。
まあそれでも、厳選したモデルだけを使ってコンパクトなモデルを書こうというかけ声は、ファウラー氏の専売特許ではなく、現場でモデリングのために苦労していた人たちの共通認識だったとは思います。しかし、ファウラー氏の功績はそれを抜群のバランス感覚と優れた文章で、薄く読みやすく、しかしずっしりと内容の詰まったガイドブックとして仕立ててくれたことですね。
昔から UML に関わってきた人には第一章の UML の位置付けの話、第二章のプロセスとの統合の話、そして過去の版との違いを解説した付録などが特に有益でしょう。特に第一章の内容は結局「仕様を記述する」という目的に対する UML の不完全性を述べているとも言えます。ここを補完し抜けのない仕様を記述するためには。形式仕様記述を援用せざるを得ないと思いますが、これにはファウラー氏は否定的です。
余談ですが、もちろん隅から隅まで形式仕様記述で書く必要もありませんし、そんなことは不経済です。繰り返し間違いが発生する箇所、コミュニケーションのチャネルが細くなりがちな場所に、曖昧さの排除の目的のために効果的に導入されるべきものでしょう。
話が脇道にそれましたが、いずれにしろ本書は UML を使わなければという圧力にさらされている人々に、選択の基準を与えてくれるという意味でも福音となる本です。昨日の本と並んで必読リストに挙げておきましょう。