酔眼漂流読書日記

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日本の森はなぜ危機なのか―環境と経済の新林業レポート

知っているようで知らない世界 - 林業。この本は現在の日本の林業が抱える課題を手際よく説明し、さらに森の復活に向けた具体的な提案を述べているものです。森のライフサイクルという観点と、それと人間がどのように関わってきたかの歴史を読むだけでも興味深い内容です。
森林の荒廃は確かに進んでいます、しかしそれは人間による乱伐の破壊だけではなく、皮肉なことに一方では人間が手を「かけられなくなった」ことによる荒廃も進んでいるのです。この本を読むと戦前までは、まだうまく回っていた森との共生がどのように歪められ現在のような事態を招くようになったのかについての知識を得ることができます。
戦後大量に植林されたスギが、何十年も経って花粉症という大きな被害をもたらしていることは、皆さんもご存知だと思いますが、当時、雑木林(照葉樹林)からこうした針葉樹林への転換がなぜなされたのかという事情も説明されています。単に「森を大切に」といった掛け声だけでは見えてこない、事実に立脚した面白さに満ちた本です。