先の「プリンシプルのない日本」で浮かび上がった白洲氏自身の姿勢を裏打ちするような本だと思いました。載せられている写真も魅力的なものが多いのですが、多くの人の語る逸話がまた楽しい。殆どの人が口をそろえて「ああも率直な物言いでは、政治家は務まるまい、しかし不思議と嫌われなかった」と言っているのが印象的でした。
辻井喬氏によって紹介されているエピソードを引用しておきましょう。
(白洲次郎氏がある大新聞の社長と交わした会話)それはロッキード事件が起こった直後のことだ。新聞がこぞって「容疑者の田中は―」というような書き方をしているのを見て、「田中角栄さんを叩くのはいいですが、あなたの新聞は四年前彼を今様太閤として、戦後日本が生んだ英雄とおだてていました。今、容疑者田中と書くのなら、なぜその前に本紙はかつて彼を英雄扱いしました、これは読者を誤らしめる不正確な報道でした、とお詫びと訂正を載せてからにしないのですか」と質問したのである。
その社長はこれまた大変気分を害し、真赤になって「だって君、分からなかったんだから仕様がないだろう」と怒った。
心の中で思っても、なかなか相手に面と向かっては言えない台詞ですね。
実は「白洲本」はもう一冊入手してあります。勢古浩爾氏の「白洲次郎的 (新書y)」なのですが、「まれに見るバカ (新書y)」とか「この俗物が! (新書y)」といった著書で悪口芸を見せてくれた勢古氏がどのように人を「褒める」のかという俗っぽい興味も少しあります(笑)。