酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

ブラック・ジャックはどこにいる?―ここまで明かす医療の真実と名医の条件

南淵明宏(ASIN:4569629601)

2003年にテレビドラマ化されて話題となったコミック「ブラックジャックによろしく」に、孤高の心臓外科医「北三郎」と呼ばれる医師が登場します。患者の生死に直結する心臓外科手術の恐怖に耐えながらも仕事を続け、ついには一度メスを置いてしまう非常に人間臭く魅力溢れる人物として描かれています。
本書はこの人物のモデルと言われている南淵明宏医師によって書かれた内省的なエッセイです。タイトルはセンセーショナルなのですが、内容は極めて真摯に書かれています。患者側だけではなく、これから医療従事者になろうと考える方々にも読んでもらいたい一冊です。
これを読んで思うのは、医者もまた一技術者であるということの再認識です。私の専門はソフトウェア開発ですが、頭の良し悪しとは関係なく、優れた技術者とそうでもない技術者が存在するように、医者にも優れた技術者とそうでもない者がいるであろうことは、容易に想像ができます。そして優れた技術者であり続けるためには、不断の鍛錬が必要不可欠であることを思うとき、手術例数、経験症例数の少ない医師の手技に対して一抹の不安を覚えざるを得ないのは事実でしょう。また同じ数をこなしていても、志のあるなしで、技術者としての技量は天地ほどの差がつくはずです。
本書はスキャンダラスな医療現場の告発本とは一線を画しています。

なお、同著者が富家孝氏(医療ジャーナリスト、医師)と共著で著した
「名医はブラック・ジャックと俺に聞け―「腕のいい医者」はどこにいる」(ASIN:4331510026)もお勧めです、こちらの方がややセンセーショナルな内容です。