酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

有限と微小のパン―THE PERFECT OUTSIDER 講談社文庫

森 博嗣 (ASIN:4062732947)
犀川助教授&西之園萌絵シリーズ最終巻。一つ前の「数奇にして模型」も好きでしたが、この作品も私は好きなものでした。登場人物達の息遣いが聞こえてくるようなテンポのよさを感じました。シリーズ中最も長い(868ページ)にもかかわらず、あまり長さを感じさせませんでした。「複製、模型、名前」のテーマはここでは「仮想現実」に投射されて、主人公達を翻弄します。アイデアとしては単純なトリックが、現実世界を支配する原理に紛れ込んできたときに、あっと驚く効果を生み出します。
シリーズを通して思うことは、最初は物語を進行させるための要素に過ぎなかった登場人物達が、段々個性を発揮して(「成長して」というべきなのかもしれませんが)行く様子が面白いと思いました。特にシリーズ後半「幻惑の死と使途―ILLUSION ACTS LIKE MAGIC」以降はトリックを楽しむだけでなく、登場人物達の生き生きとしたやり取りを楽しめるようにもなっています。個人的には国枝桃子助手がもっと活躍するお話を読みたかったと思うのですが、主人公になってもらうには、少々地味すぎるのかもしれません(笑)。
また結局、内容的な細かい不整合は残ったように思います(まあ、あまり気にしても仕方がありません。面白さがそれで特に損なわれているわけでもありませんし… :-)。また「すべてがFになる」の真賀田四季は、この巻では妙に人間臭くなってしまっていて、ある意味「矮小化」されてしまったような気がしました。四季のシリーズは他にあるようですので、そのうち機会をみて読んでみたいと思います。
これまでの10冊のリストを再掲します


すべてがFになる―The perfect insider』asin:4062639246
冷たい密室と博士たち―Doctors in isolated room』asin:4062645602
笑わない数学者―Mathematical goodbye』asin:4062646145
詩的私的ジャック―Jack the poetical private』asin:4062647060
封印再度―Who inside』asin:4062647990
幻惑の死と使途―Illusion acts like magic』asin:4062730111
夏のレプリカ―Replaceable summer』asin:406273012X
『今はもうない―Switch back』asin:4062730979
数奇にして模型―Numerical models』asin:4062731940
有限と微小のパン―The perfect outsider』asin:4062732947
このシリーズのエッセンスを味わうためには、どれを最低限読むべきかな、と少し考えたのですが、やはり全部読むのがよかろうという結論に達しました(笑)。まあ『笑わない数学者』あたりまで読んで辛いと思ったら『幻惑の死と使途』へ一気に飛んでみるのも良いかもしれません。