酔眼漂流読書日記

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心の病は食事で治す

心の病は食事で治す (PHP新書)

心の病は食事で治す (PHP新書)

脳の働きが解明されるにつれ、いかに「栄養と心の働き」が密接に関わっているかが明らかになりつつあります。しかし、それにも関わらず医療の現場やカウンセリングの現場でその機序がきちんと認識されているとはいえないのが現状のようです。心の病の多くは脳内の代謝のバランスの崩壊により引き起こされるものであり、それが原因である以上、単にカウンセラーとの対話だけを重ねても根治は難しいことがわかります。
例えば本書でも取り上げられている「低血糖症(Hypoglycemia)」は多くの現代人が苦しむ深刻な病気の一つであるにもかかわらず、医師による認知が進んでいないため、病気の認定を受けるまで内科や精神科を渡り歩き、(無意味な)抗欝剤や睡眠導入剤の処方を受けたりして病状を悪化させるという事例があります(これは単に書籍から得た知識ではなく、身近に低血糖症で苦しむ患者がいたことによる個人的な経験でもあります)。
この「低血糖症」は糖尿病患者にインシュリン注射によって引き起こされる低血糖症と区別されていない場合があるため、医師によっては血糖値を上げるために糖分の摂取を勧めてきたりするするのですが、低血糖症患者にはこれは禁忌でありほとんど症状の悪化にしか寄与しない治療なのです。
本書は低血糖症だけではなく、私たちの健康な精神生活に影響を及ぼす糖類やビタミン、アミノ酸やミネラルの働きに対する最新研究の結果をコンパクトにまとめたものです。内容は極めて専門的ですがその重要性を十分認識することができる内容になっています。また安易な化学合成物質による精神疾患の治療を、そのメカニズムから説き起こして批判し、より自然に近い物質の摂取による治療の可能性を示したものでもあります。
ジャンクフードが何故脳に有害なのかも丁寧に解説されています。最近「ゲーム脳」といった話題がマスコミに取り上げられる場合も多々ありますが、それ以上に既に実証済で深刻なのが「各種栄養素の不足」による精神への影響なのです。
医療関係者だけではなく、すべての飲食業関係者、子供達への食事に責任を持つ方々、そして様々な理由のない心の不安に脅かされている人たちにお勧めしたい本です。