酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

『兄の名は、ジェシカ』

カミングアウトした兄を間近で眺める弟

兄の名は、ジェシカ (アニノナハジェシカ)

兄の名は、ジェシカ (アニノナハジェシカ)

 

 Gを自認する著者がTの登場人物を描いた小説です

物語は、T(MtoF)であることをカミングアウトした兄ジェイソン(17歳)の周りに巻き起こる様々なドタバタを、弟であるサム(13歳)の目から描写しながら進んでいきます。ジェシカというのはカミングアウトしたあとジェイソンが自分につけた名前です。

兄弟の母親はイギリスの首相を狙う大物政治家だし、父親はその秘書で、いわゆるトラディショナルな価値観とは違っている家庭ですが、それでもジェイソンがカミングアウトしたあとはお決まりのようにパニックになります。弟も優しく強い「兄」が失われたことを受け入れることができません。

登場する人物はそれぞれ性格付けがはっきりとされていて、漫画的ではありますが、様々な起こり得る問題がドタバタと起きていきます。大げさと思う人もいると思いますが、エルトン・ジョンに同性パートナーのいるお国柄にもかかわらず、非常に保守的な側面や学校におけるいじめなどが描かれていて、どこの国でも事情は同じなのだなと思わせてくれます。

いわゆる YA (ヤングアダルト)をターゲットにした小説で、日本でも第67回青少年読書感想文全国コンクールの高等学校の部で課題図書となっています(おかげで現在入手が少し難しいです)。

LGBTにまつわる様々な課題を投げかけてくれますが、特に何らかの結論が押し付けられるわけではなく、新しいバランスをとろうとしている家族の姿が最後に描かれて終わります。