酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

シングルモルト「超」入門

シングルモルト「超」入門

シングルモルト「超」入門

「超」ってなんでしょう。女子高生が使う「チョー」は概ね very といった意味合いで、比較級、最上級といった程度を表す線へつながって行きますが、もう一つ考えられるのは beyond という奴ですね。

さて、この本のタイトルの「超」ですが。very basic という意味だけではなく、... and beyond といった感じです。

確かに丁寧に基礎知識が書かれています。これ一冊読んで理解すれば、自己流で身に付けるよりもよほど効率的にシングルモルトの広範な基礎知識を身につけることができることでしょう。

ただ老婆心ながら、モルトウィスキーにこれから入門されようとする方にひとことアドバイスを許していただけるなら、こうした本を読んだだけで、何かが分ったつもりになって bar で知ったかぶりをすることはお勧め致しません(まあデートのときに見栄を張りたいときもあるでしょうけど)。bar で中途半端にそれをやると、折角うまく流れ始めるかもしれない、お店の方との対話が損なわれてしまうかもしれないからです。

bar の楽しみは、ドアをあける前から始まっています。忙しかった一週間、ちょっと嬉しいことがあった日、一人静かになりたいとき、大切な人との時間を切り取って静かに一日に幕を下ろしたいとき、等々。

お馴染みのバーが一軒あれば、そこに向かおうと思うだけで、嬉しいこころはさらに浮き立ち、悲しい心も慰められる。そんな楽しみを見いだす事ができます。それは常連候補のあなたと、お店の人が一緒に作り上げるただ一つだけの空間です。

こうした空間に頭でっかちな「蘊蓄」は多くの場合不要です*1。もちろん知識があることにより、話の輪が広がり、より楽しめることもあるのですから、こうした愛らしい本の存在を否定しているわけではありません。実際、本書はとても素晴らしい本である事に間違いはありません。

ただこれから bar に親しもうと考える方々が、そのお楽しみを損なわないようにとの思いから、余計なことを書き連ねました(笑)。楽しみは対話(言葉を使う場合もあれば、使わない場合もあります)から生まれます。多分ある程度 bar に慣れ親しんで、なんとなくウイスキーの顔(瓶)にも見覚えのある連中が増えてきたなぁ、といったときに、楽しみを反芻するように読むのがもっとも楽しい使い方だと思われます*2

*1:「野暮」というものです

*2:まあこれもまた一つの偏見に過ぎませんが