酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

ジョナサンと宇宙クジラ

久しぶりに古典的な SF を読みました。内容としては幻想的でロマンチック、でも SF としての方程式はきちんと押さえられています。
この本を好きだというのは、いまや少々気恥ずかしいと言える程のまっすぐなストーリーが集められていますが、きっと疲れた心には優しい贈り物となることでしょう。
1977年に一度早川書房から出たアンソロジーの新装版です。もとの作品たちが書かれたのは1960年代ですから、古き良きアメリカの価値観が下敷きになったような話が多くなっているのでしょう。

例えば犬好きのひとには「リトル・ドッグ・ゴーン」という短編は涙なしには読めないと思います。
SF の持つ魅力の一つは抽象的なテーマを他の具体的な存在に投射して、抽出される前の問題の本質を浮かび上がらせることにもあります。表題作(ジョナサンと宇宙クジラ)も環境問題/南北問題として読み解く事も可能ですが、それを包み込む物語世界の懐かしさにしばし身を任せる事は読書の楽しみを再認識させてくれるようです。

ブラッドベリィの一連の作品や、カードの「無伴奏ソナタ」などを好きな人なら気に入ることと思います。