酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

薬が効かない!

薬が効かない! (文春新書)

薬が効かない! (文春新書)

薬剤耐性菌の現在についての、包括的な一般向け解説書です。
私は大学院の配属が微生物学教室(専攻はウィルス)だったので、四半世紀前から耐性菌の問題については意識はしていましたが、最新の事情についてはあまり知りませんでした。この本を読むと思った以上に事態は深刻で、これ以上抗生物質を無定見に使い続けると、かならず近い将来に、まるで20世紀前半以前の暗黒時代、すなわち抗生物質の製品化以前の時代に逆戻りするのではという不安が湧いてきます。
癌や生活習慣病ではなく、軽い肺炎や下痢による死亡率が上昇して死亡原因の上位を占める時代に戻るかもしれないのです。日本は特に悪名高い「薬漬け」により世界でも稀なほど薬剤耐性菌の跋扈する国土になりつつあるようです。
もちろん本書の内容を大袈裟な脅しと考える向きもあるでしょう。私個人は既に長い間意識して(家族もですが)よほどの必要性がない限り抗生物質(に限らず薬一般)の服用を避けるようにして来ましたが、世間に凶悪な細菌が溢れるようになってきた現在にあっては、蟷螂の斧だったというべきかもしれません。
しかし、製薬会社と医療関係者はこの問題から目を逸らしてコトをすすめることは既に許されなくなっている筈です。私も今まで以上に意識してこの事態を見守りたいと思っています。
更に言えばマスコミも鈍感すぎると言えるでしょう、BSE の牛が一頭二頭出たといって大騒ぎする傍らで抗生物質が効かないために死んだ患者は何十万人もいる筈(最近は一年に10万人が肺炎で死亡)なのですから。ちなみに「抗菌グッズ」は事態を悪化させこそすれ(本当の感染症を防ぐ効果が低い上に、耐性菌を作り出す副作用がある)、人間生活の役にはたっていないようです。