酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

誰も知らない男 なぜイエスは世界一有名になったか

誰も知らない男 なぜイエスは世界一有名になったか

誰も知らない男 なぜイエスは世界一有名になったか

もともと1984年に「イエスの広告術 (有斐閣選書R (30))」という題で、一度訳出・出版された本を、今回原題「The Man Nobody Knows」に沿ったタイトルで訳も新たにし、出版したものです。原書が1924年に出版された本書は、イエスという人物をバイタリティに溢れ広告術に長けた人物として描きなおすという、当時としては随分野心的なものだったようですね。
従来イエスは物静かな禁欲の象徴として教えられ、子供にとっては日曜に教会に行くたびに「あれをするな、これをするな」というお説教をする大人たちの親玉という印象があるので、こうした切り口の本が面白がられたことは無理もないのかもしれません(笑)。
内容としては、聖書と同じエピソードを使いながら自由にその場の登場人物の気持や、情景描写を「想像逞しく」再解釈したというもので、こういうと怒られてしまうかもしれませんが、一種の聖書のパロディと呼んでも良いくらいです。聖書の知識が沢山あると楽しめる内容だと思えますが、熱心なクリスチャンの方が面白いと思うかどうかは、わかりません。なにしろ原書の出版当時は随分宗教界から攻撃されたようですし。
位置付けとしてはビジネス書となる筈なのですが、イエスの「ビジネス」が何故成功したのかについては、あまりはっきりとはわかりません(笑)。それでも快活なリーダーであるイエスの人物像の造形には成功しているのではないでしょうか。
読んでいて面白いとおもったイエスの言葉を引用しておきましょう。当時彼の地を支配していたユダヤ教では食べてよいものと悪いものの区別がやかましいのですが、それに対して曰く:

口に入るものによって汚されることはない。口から出るもの*1によって汚されるのだ

*1:言葉