酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

自分の顔が許せない!

もし正面切って問われれば「外見は人格とは関係ない」「顔じゃないよ心だよ」と多くの人は答える筈なのですが、意地悪な見方をすれば、このような紋切り型の受け答えが成立するほどに、私たちの認識は外見・容貌に左右され易いものだといえます。
本書の著者の一人、中村うさぎ氏は「買い物依存」「ホスト狂い」などの身を張ったネタに引き続き、自分の体を使った「美容整形」を報告している作家ですし、対談の相手の石井政之氏は顔に大きな痣(あざ)があり、そこから自意識、肉体、社会との関係を考えた「顔面漂流記―アザをもつジャーナリスト」「肉体不平等―ひとはなぜ美しくなりたいのか? (平凡社新書)」 といった著作があります。
もともと石井氏の呼びかけで実現したこの対談は、こうした著者二人が「外貌の美醜と自意識、他者の視線」や「正常と逸脱の線引き」に対して、思うところを語り合う大変難しくも刺激的なものです。こうした話題は一般マスコミの記事ではそもそもタブー視されることが多く、臭いものには蓋的な扱いを受けるか、はたまた露悪的な趣味に走るかという極端な結果に陥るものが多いと思うのですが(そしてこの本も完全にはその轍を免れ切れてはいないと思うものの)、問題の提示にはまずまず成功しているのではないでしょうか。
もし「正常からの差異を持つ者」を「身障者」と呼ぶなら、その境界はどこにあるのか。そしてその「差異」を「技術で埋める行為」の意味は…。世の中には、石井氏の態度に「自分がハンデを背負っているという免罪符を持っての傲慢な物言い」を感じたり、中村氏の態度を「ブランドを買い漁るように整形美容に入れ込むオバハン」と軽蔑したりする方も多数いるものと思われますが、語り難い話題をとにもかくにも形にしたお二人の決意には敬意を表したいと思います。