酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

空飛ぶ馬 創元推理文庫

北村 薫 (ASIN:4488413013)
日本文学を学ぶ女子大生の「私」と、ふとしたきっかけで知り合った落語家の円紫師匠との間の対話を通して、日常に潜むささやかな謎を解き、生きることの輝きや意味を示唆してくれる短編小説集です。この本(著者)は、さるお店でお話した映像関係の仕事をしている友人に教えて貰いました。北村薫氏の本は初めてです。
人が死んだりせず、スパイが出てきたりしなくても、本格的な推理小説が可能であることをこの本は教えてくれます。普通推理小説というと、主人公の姿を借りた著者と読者の知恵比べといった趣になりがちなのですが、この本では登場人物たちと読者が共に額を寄せ合って謎についてあれこれ考えているような雰囲気…妙にその「場」が近しいように感じる不思議さがあります。読んでいる最中も、ずっとなにか柔らかなものに包まれているような心持がしました。
様々な古典に関する話が嫌味ではなく自然に語られて、知らず知らずのうちに勉強になるという効用(?)もあります。シリーズになっているようなので、他の本も手に入れて読んでみたくなりました。