酔眼漂流読書日記

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笑える! 世界の七癖 エピソード集

笑える! 世界の七癖 エピソード集 (PHP新書)

笑える! 世界の七癖 エピソード集 (PHP新書)

海外経験の長い著者が綴る「世界のトリビア」本です。次に挙げた目次のように、テーマ別に様々なエピソードが詰め込まれています。

序章 世界の7・癖
第1章 世界の手くせ―開ける、閉める、道具を使う、犯罪
第2章 世界の足ぐせ―歩く、走る、行進する、オシャレする
第3章 世界の口ぐせ―話す、食べる、飲む、歯を大切にする
第4章 世界の酒ぐせ―嗜好品を楽しむ、嫌われる嗜好品
第5章 世界の性癖―結婚、離婚、性道徳
第6章 世界の潔癖―清潔感、豚インフルエンザ、ゴミ問題、腐敗
第7章 世界の奇癖―宗教、観光、日本の魅力

地球の歩き方などの囲み記事にあるようなお話の集積とも言えますが、世界の都市で歩く人の平均速度を大真面目に測定した研究などを紹介したり添乗員時代の面白いエピソードを紹介したりと、一味違った情報がコンパクトに読めるのはちょっとした時間に拾い読みするのに最適です。

ちなみに研究によれば世界で一番早足でひとが歩いている街はシンガポール 、2位はコペンハーゲンだそうです。なお東京は32都市中 19 位ということでした。

一つ感心したのが米国で広がりを見せる「アイムソーリー法」(もちろん正式名称は別にあるのでしょうけれど)の紹介でした。しばしば日本では「アメリカで(英語圏で)うかつに I'm sorry. と言ってはいけない、それは非を認めたことになり莫大な損害賠償を請求されるから」と言われています。ところが最近この風潮が変わってきているというのです*1
事の起こりは 1974 年。東海岸マサチューセッツ州で自転車に乗った16歳の少女が自動車にはねられて亡くなりました。この事故に際し、運転手は被害者の父親の要請にも関わらず "I'm sorry." の一言を言わなかったそうです。もちろん裁判で不利になることを恐れてのことですね。
実はこの少女の父親は上院議員でしたが、この経験を踏まえて「わびる言葉さえ封じられては社会生活が成り立たない」ということから、通称「アイムソーリー法」を立案し長い議論を経て 1986 年に立法化されたそうです。
この法律は要するに「過ちを犯したものが謝罪しても、それを裁判では不利な証拠として採用しない」というものです。この法律は徐々に全米に広がり 2009 年の時点では 35 州で採択されているそうです。この法律は医療ミスに怯える医療関係者に特に評価されているということで、ミシガン大学の調査によれば 2001 年に 262 件あった医療ミスに関する訴訟が、2007 年には 83 件と 1/3 に減っているそうです。
患者が死んだときに、病院側から「お気の毒です」「力及ばず申し訳なかった」と一言家族に声かけできるだけで、感情のもつれを防ぐことができる場合が多いということを物語っていますね。

他にも米国の後押しで成立したアフガニスタン政府が、かつてのタリバンによる統治時代とは比べ物にならぬほど腐敗していることの現地からの指摘などなど、重要なことがトリビアに紛れてさり気なく紹介されているのも興味深いところです。

*1:まあ、もともと損害賠償など関係ない、肩がぶつかった程度のことならアメリカ人も気軽に sorry と言いますけどね。これで怖いことになるのはむしろ日本の方が多いかも(笑)