酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)

一部の人には御馴染みの名前だと思いますが、マスコミにはなにかとお騒がせの話題で登場することの多い巨大掲示板”2ちゃんねる”の個人管理人「ひろゆき氏」が、 Web2.0 を始めとする各種インターネットビジネスをとりまくバズワードを、独特の身も蓋もない言い方で論評した本です。書き下ろしというよりは語り下ろしのようで、その意味ではすらすらと読める内容です。ひろゆき氏は変にビジネス的な色気を含んだどっちつかずの喋り方をしないので、肯定する人も否定する人も議論はしやすい人ではないでしょうか。
でもそうした論理的な素早い展開の議論が苦手な人には、胡散臭さの塊のようにも思えるかもしれません。

本書に収められている2本の対談も面白いものでした。一つはITジャーナリストの佐々木俊尚氏、もう一つはプログラマー小飼弾氏との対談です。

Web に関する著作も多い佐々木氏に対して、ひろゆき氏が色々質問していくのですが、結局 ”Web2.0 ”には技術的に新しいものは何もないということが再確認されることになります。
かつて「市民ジャーナリズム」に関して佐々木氏がひろゆき氏にレクチャーしたところ「そんなもの無理ですよ」とひと言で片付けられてしまったというエピソードが披露され、それに対しひろゆき氏が「でも、合理的に考えるとそうなるじゃないですか(笑)」と言うと、佐々木氏からの反応は「気持ちはわかるし、ロジックとしては間違ってはいないのだけど、せっかくそうやって頑張っている人がいるのだから、そこまで言わなくてもいいかなって思うんだけどな」というやや腰砕けなもの。これを素直に解釈すると、佐々木氏も心の中では「無理だ」と思っているのだけれど、頑張っているからとりあえず温かい目で見守っておこうという具合に読めます。でもその方がある意味失礼ですよねぇ(笑)。

また佐々木氏は「フラット革命」という近刊では、大新聞やマスコミの権威が失われ「フラット」な世の中になりつつあると書きながら、本書では「公共性」のある新聞がないと2ちゃんねるのなかで引き起こされる扇動に対抗できないと口走って、ひろゆき氏に「でも戦前の新聞はさんざん世論を扇動して、戦争に突入させましたよね。『公共性』って何ですか?」と反論されて言葉を失っています。佐々木氏も出身が毎日新聞というメジャーなので、「公共性」という幻影にやはり一掬の未練があるのかもしれません。

二つ目の小飼氏との対談はなかなか刺激的で示唆に富んでいます。世界の作り方と壊し方に関するあるメタな議論と言っても良いかもしれません。むしろここに「「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)」の岡田斗司夫氏を加えて、「世界征服論議」をしていただけると物凄く面白い読み物になるのに、と思いました(笑)。

佐々木氏との対談と小飼氏との対談を比べると、まあ当然ではありますが「技術」を踏まえて議論しているかいないかの違いが如実が現れています。議論の土台をきちんと変なバイアス抜きで理解できているかどうかが、その上の抽象的な理念の部分にまで影響を及ぼすのでしょう。

夏休みの軽い読み物としては最適でしょうか。少なくとも「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)」を読んだ方には、「バランス」をとるためにも併せて読むことをお薦めしたいと思います。