酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

孤独のグルメ

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

表題とは裏腹に、この漫画は食に関する薀蓄を語るものではありません。主人公の中年男性が街中で飛び込んだ食堂や回転寿司、コンビニの弁当などを食べながらモノローグを重ねるだけの内容です。最後に挙げた各編の表題をみても、特に「xx秘伝のxx」「幻のxx」といったようなものとは無縁だということがわかるでしょう。
しかし、それだけの内容にもかかわらず、ひとりで食事をするとりとめのない男の心の動き(メニューに迷ったり、意外な美味しさに感心したり、まわりで食事しているひとの所作が目にとまったり、回想めいたものにしばし心が泳いだり)が既視感のように押し寄せてきて、あたかも自分がその場で食事をしているような気持ちさえしてきます。私が大好きな谷口ジロー氏の起用がとても効果的だと思います。人々や街の表情を丁寧に描きこむことのできる谷口氏だからこそ、この効果が得られたのでしょう。
次の自分の食事が少しだけ愛おしくなるかもしれません。

第1話 東京都台東区山谷のぶた肉いためライス
第2話 東京都武蔵野市吉祥寺の廻転寿司
第3話 東京都台東区浅草の豆かん
第4話 東京都北区赤羽の鰻丼
第5話 群馬県高崎市焼きまんじゅう
第6話 東京発新幹線ひかり55号のシュウマイ
第7話 大阪府大阪市北区中津のたこ焼き
第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉
第9話 神奈川県藤沢市江ノ島江ノ島丼
第10話 東京都杉並区西荻窪のおまかせ定食
第11話 東京都練馬区石神井公園カレー丼とおでん
第12話 東京都板橋区のハンバーグ・ランチ
第13話 東京都渋谷区神宮球場のウィンナー・カレー
第14話 東京都中央区銀座のハヤシライス(の消滅)とビーフステーキ
第15話 東京都内某所の深夜のコンビニ・フーズ
第16話 東京都豊島区池袋のデパート屋上のさぬきうどん
第17話 東京都千代田区秋葉原のカツサンド
第18話 東京都渋谷区渋谷百軒店の大盛り焼きそばと餃子