酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

経済が社会を破壊する―いかにして人間が育つ社会をつくるか

今日読んでいるのはこれ。感想は別途。
…ということで読み終わりました。
著者が提示する問題点のありようはよく理解できますし、ありがちで感情的なグローバルスタンダード排斥論に比べると、参考になる議論も多いのですが、長年考察を続けてきた経済学者をもってしても、やはり現実的な処方箋を書くことは困難なのだなということがよくわかります。決してこの本を否定しようとしているのではありませんが、その問題の深さや困難さにあらためて著者と一緒に苦悩してしまうといった感じになります。
公的な市場介入はなるべく避けて、市場の動きたいままに任せればよいのだという議論が間違っているのと同様に、既に市場を厳格に制御しようとする努力も破綻することを私たちは既に歴史的に知っています。
一方では驚くべきレバレッジ効果によって世界のあらゆる場所で貧富の差が広がり、まるで古代ギリシャのような「奴隷の労働の上に築かれる貴族の文化」のような状況が現出しつつあるような錯覚にも陥る今日この頃です。こうした身も蓋もない搾取の構造を乗り越えて、人間にとって心地よく意味のある社会を目指すことは可能なのでしょうか。
大きな物語に疲れ果てた個人は、小さな物語の中に安住を見出し、そこから社会を密やかに支えればよいという考え方になりがちです(私も多くの場合そうです、そのほうが楽なのですから)。でもそのままではマクロな状況悪化へ影響を与えることはできません*1
一つのヒントが、こじんまりとした「社会主義的村経営」を描いた「奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)」に見付かるような気もしますが、このやりかたは明らかにスケーラブルではありません。こうした議論がもっと広く行われるようになることこそが、どこかへ進むための第一歩ではあるのでしょうけれど…(歯切れの悪い終わり方で申し訳ありません)。

*1:せめて、後戻りできないところにたどり着いたときに、「だから言ったじゃないの」的発言をするのはよそうと思っているのですが